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がん・うつ・花粉症などを予防できる「便」の解析システムが進行中

腸内フローラを改善すればするほど、「がん」や「うつ」などの発症リスクを防げる時代が来ているといわれる。便を調べて健康になる先見的な研究を紹介しよう。

まずは昭和大学臨床薬理研究所が中心となり、昭和大学グループ(8病院3200床)と大阪市立大学や滋賀医科大学などが共同研究チームを立ち上げ、人間の体内に住む腸内細菌が免疫に与える力を解明し、新しい診断法や治療法の開発を目指すという。

具体的には、入院患者や外来を受診した人にお願いし検便キットを渡す。その人たちの病歴データを集め、腸内細菌の種類と照合。現在、数戦人分集まっており、腸内細菌の次世代シーケンサーでDNA解析を行いAIを駆使して探査も行う、同時に手術で摘出したがん組織の詳細な解析と腸内細菌を検討するという。それぞれの患者さんの持つがんに対する免疫能を把握することができる。そして免疫療法が効く患者さん、効かない患者さんをより分け、腸内細菌をコントロールすることで、がんにかからない、あるいは、たとえがんになったとしても免疫療法で治る体をつくることが究極の目的だ。

検便するだけで健康になる!

 先立つプロジェクトもいくつかある。2015年3月に腸内細菌に関わるベンチャー企業、メタジェン(山形県鶴岡市)を立ち上げた慶応義塾大学先端生命科学研究所の福田真嗣特任教授は、腸内環境から人の健康状態を科学的に評価する便解析システムを開発した(「日経ビジネス」2016年4月11日)。

 どのような仕組みだろう?

 腸内フローラには、100種類以上の細菌が100兆個以上も生息している。脳と腸は自律神経でつながっている。この脳腸相関の働きによって、腸内フローラが免疫力や脳の働きに影響を及ぼすため、腸内環境を整えると、がん、うつ、乳がん、花粉症、リウマチなどの難病を改善・予防できるのだ。

 便解析システムは、次世代シーケンサーで腸内フローラを構成している細菌のDNAと、細菌が排出する腸内代謝産物の情報を分析し、細菌の機能を精確に調べる解析システムだ。

 便に含まれるすべての細菌のDNAを精確かつスピーディに一括解析

 腸内細菌研究に大きな飛躍をもたらしたのは言うまでもなく米国のイルミナ社などが2000年代後半に開発した新型解析装置の次世代シーケンサー(NGS)だ。NGSなら便に含まれるすべての細菌のDNAを精確かつスピーディに一括解析できるのが最大のメリットだ。

 NGSは、2012年にDNA100万基当たりの読み取りコストが0.1ドル以下にダウンしたため、内視鏡やX線を使う手間を省いただけでなく、解析にかかるコスト・時間を大幅に削減したことから、腸内フローラの全貌が解明された。

 その結果、腸内細菌と疾患の関連性が明確化し、検便すれば難病の発症リスクが判明するので、発症を防いだり、抑制したりする腸内細菌を食品や薬に利活用し、健康を改善・向上させる環境が整ったのだ。

検便で腸のタイプ・細菌の多様性・ビフィズス菌の量などの全貌が分かる

 腸内フローラに関わる研究開発は、ベンチャー企業をはじめ、大学、研究機関、食品メーカーが次々と参入しているため、イノベーションは日に日に加速し、事業規模は拡大の一途を辿っている。

 メタジェンより一足先に、2014年11月から消費者向け便解析サービスをスタートしているのが、ベンチャー企業のサイキンソー(川崎市)だ。便秘に悩んでいる人や腸活(腸内環境を改善するための活動)に励んでいる人が自宅で簡単に腸内環境を検査できる検査キット、スタジオキャスパーを発売している。

 検査手順は至って簡単――。サイキンソーのウェブサイトで採便キットを購入→アカウントを登録→採便キットが自宅に到着→キットに記載されているIDをアカウントに追加→キットを使って便を採取→1週間以内にサイキンソーに返送→およそ6週間後に検査結果がアカウント上に表示される、というシンプルな流れだ。

 検査で分かるのは、太りやすさ、腸のタイプ(3タイプ)、細菌の多様性、ビフィズス菌などの主要細菌の量、菌の構成の5項目。疾患リスクは分からないが、数回にわたって検査すれば、結果データの推移をいつでも確認できる。費用は1回1万8000円。すでに1000件以上の解析実績があるという。

森永乳業や国立がん研究センター研究所も「腸内フローラ」に注目

 熱いのはベンチャー企業だけではない。40年以上もビフィズス菌の研究を続けてきた森永乳業も2015年7月、腸内フローラ研究部を立ち上げている。

 たとえば、ビフィズス菌BB536は、大腸がんのリスクを高める毒素産生型フラジリス菌を除菌する働きを持つとされる。腸内フローラ研究部は、どのビフィズス菌がどのように働き、どのような細菌を撃退するかの解明に努めている。

 研究を医療に役立てる動きも活発だ。国立がん研究センター研究所は、2014年2月から、便のサンプル1600点を集め、大腸がんと細菌の相関関係を研究している。

 初期の大腸がんは自覚症状が少ないため、発見が遅れやすい。健康診断の検便での発見率は2~4%と低い。研究所の難治がん研究分野・ユニット長の谷内田真一氏によれば、腸内フローラの解析がさらに進めば、発見率を10倍以上にアップできると話している。最新の臨床研究によると、良質な腸内フローラを持つ人の便を潰瘍性大腸炎の患者に移植して治癒した事例もある。

 「あなたの便を調べたら、半年前よりも大腸がんに罹るリスクが高まっていました。今日から、あなた専用にブレンドしたヨーグルトを食べてリスクを下げてください」こんな時代がもうすぐそこに来ている。