「腸内細菌」が「付き合い」も決める! 菌の多様性が付き合いを増やす!
人間の腸内には、数にして600兆~1000兆個、総重量1kg以上もの腸内細菌が生息している。腸内細菌の顔ぶれは、私たちの健康にさまざまな影響を及ぼすが、私たち人間の「思考や行動の傾向」、つまり「性格」にまで影響を及ぼしている性格にまで影響するという研究が増えてきた。
菌の多様性は付き合いの多さと比例する
英国オクスフォード大学のKaterina V.-A. Johnsonが2020年のHuman Microbiome Journalに発表した論文では、18歳以上の655人を対象にした研究で、主要な23属の細菌群の内7属は社交性や神経症的傾向との関連性が認められました。
被験者の平均年齢は42歳、女性71%、男性29%で、居住地は北米に83%、欧州に11%という構成。 被検者からは、糞便サンプルの提供を受けると共に、食生活、健康、社交性等に関連したアンケート調査も行い、糞便サンプルはリボゾームRNA遺伝子を標的とした遺伝子増幅反応(PCR)を行い、細菌由来の遺伝子情報を得た。
性格に影響があるとされた菌のうち、例えばアッカーマンシア属細菌の存在量が多いと社交性や外向性、社会的スキル、コミュニケーション能力などが高い傾向が見られた。
アッカーマンシア属細菌は肥満や糖尿病との関連性も指摘されている細菌群。この他、乳酸菌としてお馴染みのラクトコッカス属細菌の存在量も同様に社交性の高さと関連していたとしている。
逆にサテレラ属細菌の存在量が多いと社交性が低い傾向が見られた。サテレラ属細菌は2008年にヤクルト中央研究所によって発見された細菌。糖類を利用して増殖することができず、そのほかの反応性にも乏しいという特徴がある。
アンケート項目の行動特性や健康等に関する特徴44項目の内、25項目は腸内細菌群の多様性の高さと有意な相関を示した。腸内細菌群を構成する細菌種が多く、存在比に偏りがないほど多様性は大きくなっている。
そのことを裏付けるように、例えば、付き合いが多く大きな社会的ネットワークを持つ被検者には、より多様な腸内細菌群を持つ傾向が認められた。
特定の菌がいるとネガティブな感情になりやすい!
少し前になるが、米国のカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研究チームが、興味深い研究成果を報告している(『Psychosomatic Medicine』2017年6月28日掲載)。
女性40名の排泄物から腸内細菌を採取し、それぞれの構成を調査。それと同時に、被験者にさまざまな人物や状況などの画像を見せながら、MRIで脳内をスキャンし、そのときの感情的反応を確認した。
その結果、特定の細菌グループが「感情の反応」に影響を及ぼしているらしいことが判明したのだ。
まず「プレボテラ属」の細菌が多く分布していた被験者7名は、ネガティブな画像を見せられたとき、「不安」や「苦悩」などのネガティブ感情を強く感じたという。
これらの被験者の脳は「感情」「注意」「感覚」に関係する脳領域のつながりが強く、反対に「感情の制御」や「短期記憶の長期記憶への定着」に関連する海馬が小さく、その活動も少ない傾向にあった。
一方、「バクテロイデス属」の細菌が多く分布していたグループの被験者33名は、そうした画像を見せられても、ネガティブ感情を味わうことが少なかった。そして、小脳、前頭葉、および海馬の灰白質(神経細胞の細胞体が存在している部位)が、先のグループより大きく、活動も活発だったという。
腸内細菌が「ストレス耐性」や「うつ状態」に関与か?
以前から動物実験では、腸内細菌の有無や構成が動物の行動や性格に影響することが確認されていた――。
たとえば、スウェーデンのカロリンスカ研究所のチームは、人為的に腸内を無菌にした「無菌マウス」は通常のマウスより警戒心が薄く、危険で大胆な行動を平気でとる傾向があると報告している。
また、アイルランドのコーク・カレッジ大学や米国のバージニア大学の研究によれば、「乳酸菌」を摂取させて腸内環境をコントロールしたマウスは「ストレス耐性が上がる」「うつ状態が改善する」といった報告がされている。
こうした報告が相次ぎ、腸内細菌が「宿主」の思考や行動、感情に影響する可能性が考えられてきた。
腸内細菌は脳内物質の産生に影響
それにしても、腸内細菌が私たちの思考や行動、感情に影響を及ぼすというのは、なんとも不思議に思えるだろう。理由は「脳内での神経伝達物質の産生に腸内細菌が大きく関わるため」だ。
理化学研究所の辨野義己博士らは、次のような実験を行っている。
同じ無菌マウスの親から生まれたマウスを、そのまま無菌状態を保った「無菌マウス」グループと、生後に通常のマウスから採取した腸内細菌を与えた「通常マウス」グループとに分け、まったく同様の条件で7週間飼育。その後、両者の大脳を摘出し、脳内の物質(代謝産物)を調べた。
その結果、「無菌マウス」グループには、多く検出された物質が23種類、少なく検出された物質が15種類あった。同じ親から生まれ、同一の条件で飼育したにもかかわらず、腸内細菌の有無で脳内物質に明らかな変化が現れたのだ。
たとえば、「無菌マウス」は「通常マウス」よりも「ドーパミン」が2倍以上も多く検出された。一方で、神経伝達物質を作り出すのに必要な「前駆物質(芳香族アミノ酸)」は、「通常マウス」のほうが多く産生されており、特にドーパミンの前駆物質である「チロシン」は、「通常マウス」のほうがはるかに高濃度だった。
ドーパミンは快感や集中力などに関わる物質だが、過剰に生産されると「統合失調症」の引き金となる。つまり、腸内細菌の働きによってこれらの前駆物質が作られるとともに、神経伝達物質の産生バランスが保たれているのではないかと考えられる。
神経伝達物質の過不足は、「うつ病」や「統合失調症」などの精神疾患や「パーキンソン病」などの脳神経疾患の発症につながると考えられている。腸内環境を健康に保つことは、脳や心の健康にも大きな意味がありそうだ。もしかすると腸の健康によって、あなたの性格も変わるのかもしれない。