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皮膚の常在菌を移植してアトピー性皮膚炎が改善 皮膚疾患にプロバイオティクスはどこまで有効か?

 私たちの多くは腸には非常に特殊な微生物叢があることを知っている。しかし、私たちの皮膚にも多様な細菌叢が存在していることを知っている、あるいは意識している人は少ない。ヒトの皮膚は、何百万もの微細な細菌、真菌、さらにはウイルスでさえ覆われている。

 米国立アレルギー・感染症研究所のIan Myles氏らの研究チームは、「健康な人の皮膚の常在菌をアトピー性皮膚炎</a>患者の皮膚に移植すると、ステロイド外用薬の使用量を減らし、アトピー性皮膚炎(湿疹)が軽快した」とする、第I相/II相試験の研究成果を、『JCI Insight』2018年5月3日オンライン版に発表している。

 アトピー性皮膚炎は、喘息、アレルギー性鼻炎、食物アレルギーのリスクを高め、QOL(生活の質)の低下、医療費の増加を招く炎症性皮膚疾患だ。その発症には、皮膚常在菌や微生物が群生する微生物叢が深く関係しているとされる。

成人患者の10人中6人、小児患者の5人中4人が、重症度50%以上軽減

 Myles氏らは、健康な人から採取した皮膚常在菌「Roseomonas mucosa(=R.mucosa)」をアトピー性皮膚炎のマウスに移植したところ、症状が改善。だが、アトピー性皮膚炎患者の皮膚から採取したR.mucosaを移植しても、症状は改善せず、悪化した。

 Myles氏らは、ヒトへの安全性と有効性を検証するため、米国立アレルギー・感染症研究所の助成を受けて今回の研究を実施。アトピー性皮膚炎の成人患者10人を対象に、R.mucosaを加えたショ糖水溶液を1週間に2回、6週間にわたって、肘の内側と患者が選んだ皮膚の部位に噴霧した。続いて9~14歳の小児患者を対象に、症状のある部位に1週間に2回、12週間にわたって水溶液を使用後、使用頻度を1日おきに増やし、4週間続けた。

 R.mucosaは健康な人の皮膚から単離し、注意深く制御された実験室で培養した細菌株を使用。試験に参加した患者は、ステロイド外用薬や他の薬剤を含む通常の治療を続けた。

 その結果、成人患者10人中6人、小児患者5人中4人は試験終了時に症状の重症度が50%以上軽減した。一部の患者は治療をやめた4週間後にステロイド外用薬の使用量を減量できた。副作用や合併症はなかった。

スキンケア製品の防腐剤や保湿剤との関連も判明

 また、スキンケア製品の多くに含まれるパラベンなどの防腐剤や保湿剤がR.mucosaの成長を阻害する機序も解明された。このことから、特定のスキンケア製品を使用すると、アトピー性皮膚炎が悪化し、皮膚の微生物叢に基づく治療法の有効性が抑制される恐れがある事実が判明した。

 米レノックス・ヒル病院皮膚科医のMichele Green氏は「アトピー性皮膚炎患者に新たな治療を提供する可能性が高い。皮膚の細菌叢を通じてアトピー性皮膚炎の治癒の道を開くかもしれない」と語る。

 米国立アレルギー・感染症研究所所長のAnthony Fauci氏は「現在の治療法は症状の管理には有効だが、1日に何回も薬剤を塗布する時間的・心理的な負担が大きく、治療費も高い。今後は、アトピー性皮膚炎の治療選択肢を広げるために、使用頻度が少なく、コストパフォーマンスの高い治療法が必須だ」と強調している。

皮膚常在菌は皮膚表面に1兆個以が棲息!

 この研究の立役者は「常在菌」。健康な人の身体に日常的に存在する常在菌は、腸内に100兆個以上、皮膚表面に1兆個以上が棲息。生体を平衡状態に保つ拮抗作用、免疫力や抵抗力を強くする免疫系刺激作用、細菌の発育や増殖を抑制する静菌作用などの働きをしている。

 皮膚常在菌は、身体部位、健康状態、加齢によって変動するが、皮膚1平方cmに10万個以上が存在ずる。

 「にきび菌」のアクネ菌、皮脂成分のトリグリセリドを脂肪酸とグリセリンに分解する表皮ブドウ球菌のほか、肌がアルカリ性になると増え、炎症やかゆみを起こす黄色ブドウ球菌、アトピー性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、フケの原因になるマラセチア真菌などがある。2009年の『サイエンス』によれば、およそ205種類もの皮膚常在菌が同定されている。

これらの微生物は、互いに、そして宿主と相互作用し、病原性生物に対する障壁の一部を形成している。これらの微生物の多くが肌にとっては有益であり、外界からのバリアーとして機能している。

しかし、その微生物相が変化すると、皮膚疾患を誘発する菌の増殖を引き起こし一般的な皮膚の問題を引き起こす可能性があることもわかってきている。ヒトの皮膚の微生物叢は、年齢、ホルモンの変化、スキンケア、化粧品、日光への曝露、全体的なライフスタイルなどの複数の要因から変化する可能性がある。さらに、皮膚の特定の領域とその生物地理学、性別、民族性、地理的位置、気候、さらにはフェイスマスクでさえ、皮膚の微生物叢に影響を与える可能性がある。まだまだ未解明な部分が多いのも事実だ。