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プレスリリース

明治保有の乳酸菌OLL1073R-1株が産生する「菌体外多糖(EPS)」が、がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の治療効果を高めるメカニズムを解明

 順天堂大学(学長:新井 一)、明治ホールディングス株式会社(代表取締役社長CEO:川村 和夫)、東京大学(総長:藤井 輝夫)、仏・パスツール研究所(所長:Stewart Cole)などの研究機関からなる日仏豪の国際共同研究グループは、明治保有の乳酸菌OLL1073R-1株が産生する「菌体外多糖(EPS)」が、がんに対する免疫チェックポイント阻害薬#1の治療効果を高めることを発見し、そのメカニズムを解明した。

 本成果は2月18日(米国東部時間)、がん研究分野のみならず世界的なトップジャーナルの1つである米国癌学会誌『Cancer Discovery』のオンライン版にて公開された。

 

 明治ホールディングス株式会社は、「健康にアイデアを」のスローガンのもと、2019年4月に設立した研究所「価値共創センター」を中心に「食」と「薬」の研究を融合させながら、国内外の研究機関と積極的にオープンイノベーションを推進している。今回の国際共同研究もその一環によるものだ。

背景

 抗PD-1抗体をはじめとする免疫チェックポイント阻害薬は、数多くの癌種に対して治療薬として用いられている。一方で、治療効果が不十分な症例も存在することが知られているす。

 近年、がん患者の腸内細菌や細菌が産生する代謝物が治療効果に関わると明らかになったことで、腸内細菌叢を変化させたりプロバイオティクスを摂取させたりすることでその治療効果を高めようとする試みが進んでいる。そこで、様々な免疫調節活性が報告されている「乳酸菌OLL1073R-1株の産生するEPS」が、免疫チェックポイント阻害薬の効果を高めることができるかの研究を行った。

研究成果の概要

 研究グループは、まず、EPSの経口摂取によって小腸パイエル板#2に存在するCCR6#3陽性CD8+T細胞が増加する(図A)ことを見出し、同細胞が腸から全身に移動する可能性を示した。

 続いて、CCR6と結合するCCL20を産生する癌種を実験に用いたところ、EPS単独の経口摂取では腫瘍の大きさに変化はなかったが、免疫チェックポイント阻害薬と併用すると有意に腫瘍が小さくなった(図B)。こうした腫瘍を詳細に解析したところ、EPSの経口摂取によってCCR6陽性CD8+T細胞がより多く浸潤しつつ(図C)IFNγ#4を産生している(図D)ことや、多くの活性型T細胞が浸潤していることが判明。さらに、EPSに含まれる特殊なグリセロール3リン酸構造(図E)が、こうした機能に関わっていることが示唆された。

研究の意義と今後の展開

 本研究では、EPSの経口摂取によってある免疫細胞が小腸で増加し、同細胞が癌に浸潤して腫瘍組織内の環境をあらかじめ免疫反応が働きやすい場に整えることで、免疫チェックポイント阻害薬の治療効果が適切に発揮されることを示した。

 これまでに、腸内細菌やプロバイオティクスが免疫チェックポイント阻害薬の治療効果に影響を与えるメカニズムはほとんどわかっていなかった。

 本研究によって、CCR6陽性CD8+T細胞という「腸と癌をリンクする1つ」が特定されたことで、今後こうした研究や臨床への応用が飛躍的に進む可能性がある。

用語解説

#1 免疫チェックポイント阻害薬:がん細胞を排除する免疫反応はいくつかのブレーキがかかって止まりがちである。抗PD-1抗体をはじめとした同治療薬は、そのブレーキの機能を抑えることで免疫反応を賦活し、がんの退縮効果をもたらす。一方で、ブレーキは何重にも複雑にかけられていることがあるため、場合によっては治療効果が表れない症例も存在する。

#2 パイエル板:小腸に点在する免疫器官の1つです。CD8+T細胞などのリンパ球を豊富に含み、腸内細菌などの抗原に対する免疫反応を制御する役割を担っている。

#3 CCR6:約20種類あるケモカイン受容体の1つです。この受容体を持つ免疫細胞は、CCL20というケモカインに特異的に刺激され、CCL20を産生する癌組織に向かって遊走することが知られている。

#4 IFNγ:がん細胞やウイルス感染細胞の排除などを行う細胞性免疫システムを活性化する、極めて重要なサイトカインの1つとして知られている。

原著論文

雑誌名:Cancer Discovery(オンライン版)

論文表題:Dietary Lactobacillus-derived exopolysaccharide enhances immune checkpoint blockade therapy

論文表題(和訳):経口摂取したLactobacillus乳酸菌由来の菌体外多糖(EPS)は免疫チェックポイント阻害薬の効果を高める

著者:Hirotaka Kawanabe-Matsuda1,2, Kazuyoshi Takeda1,3, Marie Nakamura2, Seiya Makino1,2, Takahiro Karasaki4,5, Kazuhiro Kakimi4, Megumi Nishimukai6, Tatsukuni Ohno1,7,8, Jumpei Omi9,10,11, Kuniyuki Kano9,10,11, Akiharu Uwamizu9,10,11, Hideo Yagita12, Ivo Gomperts Boneca13, Gérard Eberl14, Junken Aoki9,10,11, Mark J. Smyth15, Ko Okumura1,16

著者(日本語表記):川鍋(松田)啓誠1,2, 竹田和由1,3, 中村真梨枝2, 牧野聖也1,2, 唐崎隆弘4,5, 垣見和宏4, 西向めぐみ6, 大野建州1,7,8, 近江純平9,10,11, 可野邦行9,10,11, 上水明治9,10,11, 八木田秀雄12, Ivo Gomperts Boneca13, Gérard Eberl14, 青木淳賢9,10,11, Mark J. Smyth15, 奥村康1,16

所属研究機関:1順天堂大学大学院医学研究科 乳酸菌生体機能研究講座、2明治ホールディングス株式会社 価値共創センター、3順天堂大学大学院医学研究科 細胞基盤研究センター、4東京大学医学部附属病院 免疫細胞治療学講座、5東京大学大学院医学系研究科 呼吸器外科学、6岩手大学農学部 動物科学科、7東京歯科大学 口腔科学研究センター、8東京歯科大学 研究ブランディング事業、9東京大学大学院薬学系研究科 生物薬科学、10東北大学大学院薬学研究科 分子細胞生化学分野、11AMED-LEAP 日本医療研究開発機構、12順天堂大学医学部 免疫学講座、13仏・パスツール研究所 Unit of Biology and Genetics of Bacterial Cell Wall、14仏・パスツール研究所Microenvironment and Immunity Unit、15豪・QIMRバーグホーファー医学研究所 Immunology in Cancer and Infection Laboratory、16順天堂大学大学院医学研究科 アトピー疾患研究センター

DOI:10.1158/2159-8290.CD-21-0929